血液の液体成分であるリンパ液は、静脈が回収しきれなかった老廃物を取り込んでリンパ管に吸収され、最終的に鎖骨下の静脈に合流します。
リンパ浮腫はこの一連の流れが滞った場所に強いむくみが出ます。約8割が脚、次いで腕への発症が目立ち、片側だけのこともあれば、両側の場合もあります。
リンパ浮腫は、がんの手術でリンパ節を切除した人に発症しやすく、子宮がんや卵巣がん、乳がんなどの婦人科系のがんや男性の前立腺がんの手術でも起こります。
同じ手術でも発症しないケースもあり、原因は分かっていません。
その他、放射線治療やある種の抗がん薬治療が原因になることもあります。また、肥満があると脂肪がリンパ管を圧迫するためリスクは高まります。
リンパ浮腫は痛みや違和感、むくみで関節が曲がらず、靴が履けない、服が着られないなど、日常生活にも支障を来たす病気です。リンパ浮腫はむくみなど一旦症状が出現すると、徐々に悪化し続けます。場合によっては脂肪組織に細菌が感染し、痛みや発熱を伴う蜂窩織炎(40度近い急激な発熱、状態が悪い場合は死亡する可能性)を頻発するようになります。
リンパ浮腫の患部に起こる急な炎症のことです。リンパ浮腫患者さんの約30%に、蜂窩織炎が発生すると言われています。患部に突然の赤みが出て、急速に進行し、数時間以内に39~40度の熱が出ます。
蜂窩織炎を起こすたびに、リンパ管もダメージを受け、リンパ浮腫の悪化につながります。蜂窩織炎を繰り返している患者さんは、できるだけ早く、適切な治療を受けることが必要です。
リンパ浮腫の治療の基本は、「複合的理学療法」と呼ばれる保存療法です。
複合的理学療法には、以下の4つが含まれます。
1圧迫療法(弾性ストッキング、スリーブ、包帯など)
2マッサージ(リンパドレナージ)
3スキンケア
4圧迫した状態での運動療法
この中でも、一番重要なのは圧迫療法です。かなりのむくみ解消が望めます(8割くらいの方は、手術をせずに保存療法だけで十分症状が軽くなっていきます)。
経過が思わしくなく蜂窩織炎を繰り返すケースでは手術が検討されます。
近年、超音波検査の進歩で深層部のリンパ管の存在や、リンパ管の傷み具合、近くを通る静脈の位置まで分かるようになっています。
手術は、リンパ管と近くの静脈をつなぐ方法が一般的で、手術用顕微鏡を使い局所麻酔下で行います。
リンパ管静脈吻合術 (LVA)はリンパ機能の残っているすべての患者様に適応があり、なかでも蜂窩織炎を繰り返している患者様、リンパ小疱のある患者様におすすめの治療法(手術)です。
リンパ管静脈吻合術 (LVA)は、簡単に言うと流れの悪くなったリンパ管を静脈につないで、リンパ液が静脈を通って心臓へ戻っていけるようにする手術です。手術時間は2~3時間、入院期間は最短で2泊3日です。局所麻酔で、傷は1~3cmくらいなので、体への負担が少ない手術です。
手術後は、当日から歩いてトイレや洗面に行けます。手術翌日から、圧迫療法を再開します。手術後にリンパドレナージや弾性ストッキング着用を行うと、これまで以上に効果が出やすくなります。
癌の治療でリンパ節を切除すると、リンパの流れが悪くなるため、リンパ管の中の圧力は、100mmHg以上に上昇すると言われています(正常なリンパ管内圧は20~30mmHg)。それに対して正常な静脈内圧は10mmHg以下です。リンパ管と静脈をつなぐと、リンパ管圧と静脈圧の差から、異常に上昇したリンパ管内圧を下げることができると考えられます。LVAは「リンパ管内圧の上昇」というリンパ浮腫の病態に直接働きかける、本質的な治療といえます。
リンパ浮腫の患部に、水疱ができることがあります。リンパ小疱(りんぱしょうほう)またはリンパ漏(りんぱろう)と呼ばれます。
リンパ小疱がある方は蜂窩織炎を起こしやすく、リンパ浮腫が悪化しやすくなってしまいます。放置せず、治療を行うことが重要です。
動画で分かる「リンパ浮腫の最新診療」
むくみクリニックは、がん治療後のリンパ浮腫に悩まれる患者様の専門クリニックです。
当院では、保存療法やリハビリテーション、手術(LVA)等を組み合わせて、最新のリンパ浮腫治療を提供すると共に、患者様が100才まで元気に、楽しく過ごせるよう一生涯にわたりサポートしていきます。